虫歯と虫歯治療による顎関節症の発症リスク
虫歯が悪化すると顎関節症になるリスクがぐっと高くなることをご存知でしょうか?
虫歯は人間にとって最も身近な疾患の一つで、「歯磨き」、「歯石除去」、「歯周病予防」などの予防をしなければすぐに虫歯になってしまいます。
実はこの虫歯は顎関節症の発症と密接に関係しています。「虫歯になったことが原因」、「歯科医院で虫歯治療したことが原因」により顎関節症になるケースについて解説します。
虫歯とは
まずは虫歯とは、どのようにしてなるのかを簡単に解説します。
虫歯は歯周病とともに歯の2大疾患と言われています。別名「う蝕」とも呼ばれますが虫歯になる原因は主に口腔内の細菌によるものです。虫歯菌という細菌が生み出す乳酸によって歯が溶かされた状態が虫歯です。
この虫歯菌の代表的なものが、ストレプトコッカス・ミュータンスという細菌ですが、この細菌は乳酸の産生能力が高い上に歯にくっつく能力もあるため虫歯を作る働きが強いのが特徴です。歯の間や歯と歯茎の間を爪楊枝などでこすると白いカスのようなものが出ることがありますが、これが細菌の塊でプラークと呼ばれる虫歯の元凶です。
虫歯は、溶かされて出来た穴の深さによって4段階に分類されています。歯の最も外側であるエナメル質に留まっているC1、エナメル質の内側にある象牙質にまで到達したC2、歯の神経にまで達したC3、歯冠がほとんど喪失し、歯根だけになったC4です。
C1からC3までなら、虫歯治療で治すことが出来ますが、C4になると抜歯しなくてはならなくなることも珍しくありません。虫歯になってさらに抜歯するようなことになると顎関節症のリスクが一気に高まっていきます。
歯と顎位の関係
虫歯と顎関節症の解説に入る前に歯と顎位(顎の位置)について理解する必要があります。
歯と顎は密接な関係にあります。下顎は頭蓋骨からぶら下がっているだけなので、不安定な状態ですが、その下顎を安定した位置に維持するために役立っているのが上下の歯の噛み合わせです。
正常な噛み合わせとは、左右の顎関節が正しい位置にあることと、正しい下顎位で上下の歯が咬合されている状態です。下顎は「顔面を支える」、「口を上下左右に動かす」という役割を担っていますが、その下顎に偏位をもたらすのが上顎の歯です。
このように顎の位置は歯なくしては安定しません。上下の歯の噛み合わせが顎位の決定に重要な役割を果たしていると言えます。
虫歯になるとなぜ顎関節症になりやすいか?
虫歯と顎関節症は、あまり関係が無いように感じる方も多いと思いますが、その関係性が前述した「顎位(がくい)」という問題です。虫歯により顎の位置がズレることにより顎関節症になりやすくなるのです。
虫歯になるとどのような症状が起きて顎関節症につながっていくのかを見ていきましょう。
虫歯で歯に穴があく
虫歯になると歯に穴があきます。穴があいた位置が歯の咬合面であった場合には上下の歯の噛み合わせが変わってくることがあります。これが虫歯により抜歯すると噛み合わせはさらに大きく変わります。
このように虫歯により噛み合わせが悪くなると下顎の位置が本来の位置からずれ、不安定になってしまうことがあります。顎位の不安定化は、顎関節や筋肉に負担をかけることになり顎関節症を引き起こす可能性が高まるのです。
痛い歯で噛まない偏咀嚼(片側噛み)
奥歯の両方が虫歯になったら咀嚼ができなくなりますので誰もが歯科医院に行って治療をします。しかし、片側の虫歯だけなら激しい痛みが来るまでは歯医者には行かずに我慢する人は少なくありません。その場合は食事の際には正常な歯のみを使って咀嚼しようとします。
また、歯周病で歯茎が腫れたり、歯根の先に膿の袋を作ったりすると歯が痛くなってくることがありますが、口全体の歯茎が腫れたり、たくさんの歯に膿の袋ができて同時に痛くなることはあまりなく、たいていは一部の歯茎や歯だけに起こります。
このような片側だけが痛む状態になると痛くない方の歯のみを使いますので偏咀嚼(片側噛み)という状態になります。片側だけで噛む癖がついてしまうと一方の咀嚼筋だけを使うようになるため、「咀嚼筋群の痛み」、「顎関節の変形」が起きて顎関節症の発症要因となります。
歯の痛みによるストレス・不定愁訴
慢性的に続く歯の痛みはストレスの原因になります。歯の痛みが続く原因としては、虫歯の問題だけではなく、歯根の先に出来た膿の袋、歯周病などのケースもあります。適切に治療を受ければどれもコントロール可能な症状なのですが放置することで痛みを感じるようになります。
歯の痛みが続くとストレスを常に受けるようになります。そしてストレスが蓄積していくと原因不明の頭痛や睡眠障害といった不定愁訴の原因となることがあります。
また、虫歯により噛み合わせが悪化することも同じくストレスを引き起こします。「顎の痛み」、「噛合わせ悪化」、「ストレス・不定愁訴」が積み木のように重なることで顎関節症が発症しやすくなります。
虫歯治療により顎関節症が発症することがある
虫歯治療では、痛みをなくす、虫歯予防をするために、「歯を削る」、「詰め物・被せ物をする」、「抜歯する」などの治療が歯科医院でおこなわれます。
この虫歯治療が原因で噛み合わせが悪くなり、顎位が偏位することで顎関節症が発症することがあります。それぞれ見ていきましょう。
歯を削ることで噛み合わせが悪くなる
歯を削ると削った分だけ噛み合わせが低くなってしまいます。ほんの少し削っただけでもお口の中の感覚は敏感なので、違和感が出てしまうこともあります。
また、虫歯がたくさんある場合には同時に何本も削るような治療がおこなわれることがありますが、その影響で噛み合わせが悪くなったり、自分が元々どういう噛み合わせだったか分からなくなることもあります。
このように歯を削ったことが原因で咬合異常になって顎関節症の発症につながることがあります。顎関節症の疑いがある人が虫歯になった場合には、噛み合わせを慎重に診て治療する必要がありますので、顎関節症の専門クリニックを受診することがお勧めです。
抜歯することで顎位が偏位することがある
抜歯をすると、歯がない部分が生じてしまいます。歯がないところを放置したままで長期間経過すると後ろ側の歯が前へ傾いてきたり、咬み合わせていた歯とそれを支える組織が欠損した部分に向かって伸びてくる挺出(ていしゅつ)になることがあります。
また、抜歯した部分の後ろ側の歯が前方へ傾斜すると、その歯の後ろの歯もそれに伴い傾斜していきます。
こうして歯の欠損により生じた影響は歯列全体の歪みを生じて顎位が偏位してしまうことがあります。
被せ物、入れ歯による咬合異常
虫歯治療では、詰め物や被せものを入れることがあります。また、歯を抜かざるを得なかった場合には入れ歯をしたりすることがあります。
被せものや入れ歯の噛みあわせは人工的に作られたものです。生体に調和する物を作る為には、個人個人の顎の動きや、顎の動きを考慮する必要があります。
その為、合わない被せ物や入れ歯をする事により、噛み合わせの違和感が生じます。
まとめ
虫歯になることで顎関節症の発症リスクが高まることがお分かりいただけましたか?
虫歯になって、それを我慢し続けるのも問題ですが、むやみに歯を削ったり、抜歯することで別な問題を発生させる可能性があります。特に気を付けていただきたいのが、顎関節症の疑いがある方が歯科治療を受けることです。顎関節症の症状をあまり考慮しない治療により病状が悪化する可能性があります。
まずは専門クリニックにご相談ください。当院では予約制の初診カウンセリングも実施しておりますのでお気軽にご相談下さい。